¥3,630
Sol LeWitt: FOUR BASIC KINDS OF LINES & COLOUR
36ページ、34カラー図版、ソフトカバー 英語
価格:3,300円+税
アメリカ人アーティスト、ソル・ルウィットが、1977年にPrinted Matter Inc.から出版したアーティスツ・ブック『Four Basic Kinds of Lines & Colour』の復刻版。1969年の『Four Basic Kinds of Straight Lines』と、1971年の『Four Basic Colours and Their Combinations』 という2つの既刊出版物を合わせたもの。各見開きの左ページは4種類の線(垂直、水平、右向き対角、左向き対角)を可能な全ての組み合わせで描かれた白黒のドローイングを、右ページには4色(黄、黒、赤、青)の組み合わせシステムのドローイングを収録。冒頭2ページは、その後に続くすべての順列を概観するキーとなる作品が掲載されている。
ソル・ルウィット(Sol LeWitt,1928年9月9日 - 2007年4月8日)
アメリカにおけるコンセプチュアリズムの創始者であり、その初期の理論家の一人である作者が、芸術作品そのものよりも作品のアイデアと論理的定式化を重視したことは周知の事実である。そのような論理に対する固執が、美的に優れた作品の創造を妨げるのではないかと疑うこともできるかもしれないが、本書で見られる作者の努力による作品群が、その疑念が思い過ごしにすぎないことを証明している。
ソル・ルウィットと「アーティスツ・ブック」
ワタリウム美術館「I LOVE ART 2」掲載テキストより抜粋
通常画集と呼ばれているものはカタログと作品集に分けられる。カタログは図録と訳されて、文字通り展覧会の記録、あるいは主旨の補強のために作られるもので、いわゆる作品集とは性質が違う。しかし回顧展のように特にテーマを持たず、作家を時間に沿って総括するような展覧会では図録イコールで作品集となる。作品集的なカタログという微妙なものが作られるわけだ。この分類のほかに、美術ではもうひとつ「アーティスツ・ブック」と呼ばれるものが存在する。一般的には作家自身が作った本ということになる。具体的には、作家が明確な意図をもって出版に携わったもの、装丁など本の量感にまで作家の意見が反映されているもの。
このアーティスツ・ブックを専門に扱う「プリンティド・マター(印刷物)」という名前の書店がニューヨークにある。今では通常の作品集も扱う美術書店として営業しているが、この書店は、実は1978年にルーシー・リパードという女性と共同でソル・ルウィットが創業した書店である。1980年代、その書架に並んでいた聞き慣れない作家たちの名前は、その後ほどなくしてアメリカの現代美術を代表する作家としていやというほど耳にすることになる。ローレンス・ウェイナー、ジョン・バルデッサリ、バーバラ・クルーガー、ジェニー・ホルツアー。もちろんルウイット自身の本もたくさん並べられていた。
ルウィットはアーティスツ・ブックの分野ではもっともメジャーな作家といっていい。作品の傾向にも助けられているのだろうが、ルウィットの展覧会カタログは図録というには余りに奔放で、ほとんどがアーティスツ・ブックと考えていいだろう。1968年にアスペンという「箱入りの雑誌」のために作られた「シリアル・プロジェクト#1」が最初とされているが、これはあくまで部分的な担当で、1969年にロンドンで出版された「直線の四つの基本種類」が最初の試みとされている。それから1991年までに50冊以上の本が作られている。
アーティスツ・ブックは、ルウィットが中心的な役割を果した60年代のコンセプチュアル・アートと並行して発達したメディアである。コンセプチュアル・アートとはアートとはどんなものかという理念を提示するものだから、造形としての作品そのものには大した意味はない。効果的に概念を伝える媒介物を考えたときに、本という形態、そして本の流通制度というのは作家にとって非常に都合のいいものだったのだ。しかしルウィットにとってはそういう理念上の問題だけではなく、もともと本の世界への執着があった。
あまり知られていないようだが、ルウィットは三十代の初めにニューヨークの近代美術館の書籍売り場で働いていた。のちに「プリンティド・マター」を共同創業するルーシー・リパードも美術館で働いていて、ルウィットはロバート・ライマンやダン・フレヴィンといった作家を彼女に紹介されていくうちに自分も作家になってしまうのだ。本の作り手としても有名になったルウィットだが、アーティストに先行している本好きなひとりの人間というプロフィールに、宿命的な本作りの原点を見てとることもできるのである。