Sol LeWitt’s Studio Drawings in the Vecchia Torre
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Sol LeWitt’s Studio Drawings in the Vecchia Torre
20.3 x 25.4cm、128ページ、79カラー+モノクロ図版、ハードカバー 英語
税込価格:10,450円

アメリカ人アーティスト、ソル・ルウィットの新刊。
1976年にソル・ルウィットはイタリアのウンブリア州スポレート市にある中世の塔「ヴェッキア・トッレ」の内壁に、鉛筆によるドローイングの大群を描いた。崩れやすい壁に描かれたその脆く儚い作品はほとんど公開されたことも話題になったこともないが、作者の主要な作品のひとつであり、アメリカのコンセプチュアル・アートの重要な節目となった一作である。
本書は美術史学者ライ・ダグ・ホルンボーによるルウィットの作品に関するエッセイ、フォトグラファーでありアーティストのヨシ・ヘルツェグがドローイングを撮影した60点の写真群を収録。この唯一無二で、その場にしか存在しない作品の視覚的なアーカイブとして、ルウィットの非常に私的なドローイング群を、伝記的そして理論的な背景の中で位置付けた、知られざる傑作に新しい光を当てる一冊。



ソル・ルウィットというアーティストについて

2026年現在、東京都現代美術館で開催されている「ソル・ルウィット オープン・ストラクチャー」展では6点のウォール・ドローイングが制作され展示されているが、ルウィットは2007年に亡くなっているので今回の制作はもちろん本人の手になるものではない。しかし美術館の壁に「壁画」として展示されている作品は再現展示でもなければレプリカでもない。正真正銘2025年に制作された「本物」である。いかにも矛盾しているように思える、作家本人の不在にも関わらずオリジナルが現在形で作られていること。実はそのこと自体がルウィットというアーティストが20世紀の美術史に名を残す理由でもある。

ルウィットが作家として活動を始めた1960年代、美術作品と言われるものは、着想から実現までを一人の芸術家が手がけることによってその意義や価値が生み出されるとされていた。オリジナルが生まれるのは特定の人物(この場合は芸術家)の存在を前提とした時間の流れの中のある特異点であり、その時間と空間の唯一性がさまざまな意味での美術作品の「価値」と神話的な「芸術家像」を担保してきた。当時は抽象表現主義の全盛期であり、ルウィットも当初は抽象表現主義的な絵画を制作していたが、やがて幾何学的形象を規則的に配した立体や写真を用いた表現へと移行してゆく。
そして1968年10月、ニューヨークのポーラ・クーパー・ギャラリーで初のウォール・ドローイング作品を制作。以降ルウィットの代表作となるこの作品(ウォール・ドローイング)では、アーティストが紙上に描いたドローイングとその構成要素をどのように壁に描いてゆくかの機序が示され、実際に壁への描画を行うのは「ドラフツマン(ウーマン)」と呼ばれる協力者たちであった。当初はアシスタントと呼ばれたが、やがて共同制作者として名前が明記されるようになるこの「ドラフツマン(ウーマン)」との関係を、ルウィットは音楽における「作曲者と演奏者」と同様、互いになくてはならない存在であると述べている。J.S. バッハをはじめとしてクラシック音楽の愛好家でもあったルウィットは「アイディアの制作者であるアーティストは”作曲家"であり、実際に描くドラフツマンは”演奏者"である」とも述べている。バッハの「ゴルトベルク変奏曲」がグレン・グールドと高橋悠治の演奏ではまるで異なる響きを聴かせながら間違いなくそれは「バッハのゴルトベルク」であるように、さまざまな国や地域の、出自も年齢も異なるドラフツマンたちによって描かれるウォール・ドローイングは、制作の都度変奏されながらも、まさにそのコンセプチュアルなありようによってルウィットの作品とみなされるのである。

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